美女が疾走するおすすめ映画集
音楽と同じく映画にもよく触れるんですが、ランニングをこよなく愛する者としては、映画鑑賞中も登場人物が走る場面になるとつい身を乗り出して見てしまいます。
今回はそんな私がおすすめする「映画における感動的なランニングシーン」をお届けしたいと思います。
とはいうものの古今東西の映画の中に走るシーンなんか無数にあるわけで、私みたいな素人にはとてもじゃないけど追っかけきれません。
そこで、ジャンルを日本映画の女優の走りに絞ることにしました。
大抵の男の役者は運動能力が高いので適当に走らせてもそれなりに絵になりますが、女優は走り慣れてない人が多く、かっこいいランニングシーンって案外少ないんですよね。そもそも昔は、女性が全力疾走すること自体ほとんどなかったわけだし。
そんなわけで最近観た邦画の中から、走る姿が印象的だった女優をピックアップしてご紹介いたします。
『紙の月』(2014年)の宮沢りえ
女性銀行員による多額横領事件を描いたこの作品。物語のクライマックスにヒロインである宮沢りえが、夕陽を浴びながら逃走するシーンがあります。
宮沢りえの表情と走りがとても美しく、観客に最高のカタルシスをもたらします。私も思わず「いいぞ! どこまでも逃げろー!」って心の中で叫んじゃいましたよ。
たいへん綺麗なランニングフォームですが、実はメイキング映像を見るとそれほどでもなくて、女性のごく一般的な走り姿って感じです。
それを感動的なシーンへと昇華させたのは、やはり制作陣の力量なのでしょう。
監督は青春映画の傑作『桐島、部活やめるってよ』の吉田大八。さすがの腕前です。
映画のランニングシーンはただ走ってるのを撮るんじゃダメで、振り付け的なフォームの作り上げとスローモーション等の演出効果が不可欠だということがよくわかります。
今後走る女優を撮る監督さんにはぜひ参考にしてほしいシーンでした。
『タッチ』(2005年)の長澤まさみ
『紙の月』は演出の見事な例でしたが、実はこちらは悪い例。
大ヒット漫画の映画化作品で、当時18歳の長澤まさみが浅倉南を演じます。
終盤、南ちゃんが地区大会決勝戦が行われている球場へ必死に駆けつける場面。バックには「呼吸を止めて一秒~♪」とアニメ版主題歌が流れます。
この長澤まさみの全力疾走が映画のクライマックスなのですが、何とも間の抜けた絵でイマイチ盛り上がりません。
背景とかもうちょっと気をつかえよ。
長澤まさみは父親がサッカー選手だったこともあり運動神経はかなりいいほう。走れる女優です。
なのに演出がテレビドラマみたいに安っぽいせいで、せっかくの走りが台無しになってます。
監督は『ジョゼと虎と魚たち』の犬童一心。『タッチ』なんか頼まれたから撮っただけでやる気が出ないのはわかりますが、全盛期の長澤まさみという最高の素材を与えられたわけだから、せめてアイドル映画として最大限可愛く撮ってほしかったですね。
だいたいこの監督って『ジョゼ』はたしかに傑作ですけど、他の作品はパっとしないんですよね。私の中では一発屋という認識です。
『時をかける少女』(1983年)の原田知世
アイドル映画で主演女優に走らせるとはどういうことか。最も端的に映像化したのがこの元祖「ときかけ」です。
色あせることない青春SF映画の古典ですね。
原田知世の走りが見られるのは、なんとエンドロールの最後。
画面の奥から主人公がこちらに向かって走ってきてカメラ目線で微笑む、というクレイジーなショットで映画が終わります。
しかもご丁寧に拍手の効果音まで入ってます。
観客が拍手しなくても俺は大喝采するぞ、という監督の意志表示なのでしょう。大林宣彦監督が当時15歳の原田知世に心底惚れこんでいることがわかります。
この異常な愛情、変態っぷりが「ときかけ」をアイドル映画の傑作たらしめていると思います。
『時をかける少女』(2010年)の仲里依紗
「ときかけ」と言えば2006年の細田守監督によるアニメ版も有名ですが、2010年に実写版がリメイクされていることをご存じでしょうか?
主演はアニメ版で声をあてた仲里依紗。ストーリーはオリジナルですが、アニメ版と同様に主人公が走るシーンが随所にあります。
映画のデキはまあまあといったところだけど、仲里依紗の走りっぷりは評価に値します。フォームが綺麗だし、必死さが伝わる表情もグッド。
全盛期の仲里依紗ってこんなに魅力的だったのかと再発見できる作品です。ファンのかたはぜひ。
『新宿スワン』(2014年)の沢尻エリカ
園子温監督とは全く肌が合わないんですが、この映画の中盤の疾走シーンはいいですね。
ヤクザに食い物にされてる風俗嬢の沢口エリカが、綾野剛扮する水商売のスカウトマンに救われて逃走。歌舞伎町の真ん中を下着に裸足といういでたちで駆け抜けます。
自由になった解放感を体全体で表現していて、とても清々しいシーンです。これは監督の技量よりも、女優の個人技によるところが大きい気がしますね。
エリカ様はああ見えて実は走れる女優として定評があり、様々な映画やドラマでダイナミックな走りを披露しています。
こちらは『不能犯』(2017年)の女刑事役。
走りの基本がしっかりしてるので常に見栄えがいいんですよね。
『愛の新世界』(1994年)の鈴木砂羽と片岡礼子
走る風俗嬢つながりでこの映画もぜひご紹介したい。
『愛の新世界』は1994年に公開されたR18指定映画で、日本初のヘアヌード解禁作品として話題になりました。
裸は多いもののエロさはさほどなく、カラッとしてて爽やかな後味を残します。上質な青春映画と言っていいと思います。
ランニングシーンは映画の中盤。主人公の二人、鈴木砂羽と片岡礼子が夜遊びしたあと勢いにまかせて六本木から渋谷まで走ってしまいます。
若い女性の眩しいほどの生命力が表現されている名シーンです。BGMで流れる山崎ハコの『今夜は踊ろう』もナイスな選曲。当時の東京の街並みが懐かしい。
ちなみにこの映画、無名時代の阿部サダヲや宮藤官九郎、大杉漣なども出演しており、そうしたトリビア的な小ネタも見どころの一つとなっております。
『海街ダイアリー』(2015年)の広瀬すず
現在、日本の主役クラスの女優で最も運動神経がいいのは、文句なしに広瀬すずでしょう。
この作品内で見せたサッカー技術は、あまりに上手すぎるとサッカーファンからも大絶賛されました。
体がよく動くためスポーツシーンを要求されることが多い女優ですが、どれも完璧にこなしてしまうところが彼女のすごいところ。
そんな広瀬すずが『海街ダイアリー』で走っている姿がこちら。
ここではその運動センスを封印し、腕を左右に振るいわゆる「女の子走り」に徹しています。
明らかに彼女本来のランニングフォームではないけれど、これにより孤独になった少女の寄る辺なさと可憐さ、健気さが伝わり観客の胸を打つわけです。
世界の是枝裕和監督ともなると、役者の一挙手一投足にまで演出が行き届いているなあと感心した次第。
『恋は雨上がりのように』(2018年)の小松菜奈
陸上部の女子高生が主人公で「人生の再スタート」がテーマのこの映画。
まずヒロインが陸上選手らしく見えないと話にならないわけですが、そこは小松菜奈のこれ以上ない役作りで十分にクリアしています。
元々スタイル抜群でアスリートとそん色ない体型ですが、陸上の練習も相当積んだようでフォームもばっちり。短距離ランナー役に違和感は全く感じませんでした。
もうちょっと脇を閉めたほうが女性的で可愛く見えると思いますが、この主人公は一本気で不愛想な性格の子なので、キャラ的にこの走り方で合ってると思います。
Youtubeで公開されてる上のMVを見ればストーリーはほぼ想像がつくでしょう。実際9割方はご想像どおりに進行します。
じゃあ見る価値ないかというとそんなことはなく、実はこの映画、単なる恋愛ものではなくて、一度何かを諦めた者たちのリスタートの物語。だから映画内の言葉が中年男性の胸にグサグサ刺さるんです。
そもそも、冴えない四十男が小松菜奈に惚れられるという夢に2時間浸れるだけでも見る価値があるってもの。中高年のかたに強くおすすめしたい一本です。
『生きてるだけで、愛』(2018年)の趣里
最後にメンヘラ系女性が激走する映画を2本ご紹介。
『生きてるだけで、愛』は菅田将暉と趣里による恋愛映画。精神を病んだ女性役の趣里が体当たりの演技を見せています。
走るシーンは序盤と終盤の2ヶ所に用意されているんですが、印象的なのはやはりクライマックスの服を脱ぎ捨てながら夜の街を疾走する場面。
趣里の鬼気迫る表情と走りっぷりには女優魂を感じます。細くしなやかな体がどこか幻想的で映像としてもすごく綺麗。
ただこの映画、脚本が悪いせいでせっかくの役者陣の熱演を活かしきれてないんですよねえ。
菅田将暉の元カノ役で仲里依紗が出てるんですが、このキャラなんかほんとひどい。話を転がすためだけに存在するバカみたいな女で、映画全体を薄っぺらいものにしちゃってます。
原作は結構コミカルな小説で、そうしたタッチだから許されるキャラをトーンの違う映画に落とし込んだっておかしなことになるに決まってます。かなり惜しい作品ですね。
『淵に立つ』(2016年)の筒井真理子
あまりメジャーではないけど、カンヌ映画祭などで高く評価された作品。ある事件により心に深い傷を負った母親役を筒井真理子が演じています。
物語の後半、事件に関わる電話を外出中に受けた彼女。しばらくぼんやりと歩いていましたが、徐々に歩みが早くなりついには何かに憑かれたかのように全力で走り出します。
この一連の感情の動きと走る姿を1分近い長回しで見せる演出が見事。しかも走ってる間、常に顔に影ができるよう計算されており、観客は何とも言えない不安ともどかしさを感じてしまうのです。
このシーンだけでも深田晃司監督が非凡な才能の持ち主であることがわかります。未見のかたは早めにチェックすることをおすすめします。
まとめ
以上、日本映画界を代表する女優たちのおすすめ疾走シーンをご紹介しました。
今日はランニングを休んでビデオでも見ようかという時に参考にしてください。
いやあ、映画とランニングって本当に楽しいものですよね。それではまた。